【No.02】日本人スター多数出演!インバウンド戦略に重要な中国映画が公開
中国映画『唐人街探偵 東京MISSION』が7月9日に日本で公開された。チン・フォン(演:リウ・ハオラン)と叔父のタン・レン(演:ワン・バオチャン)の凸凹探偵コンビが世界中の中華街で難事件を解決する人気シリーズの第3作目だ。
1作目(2015年、日本未公開)の舞台はタイ。2作目(2018年、日本未公開)はアメリカ・ニューヨーク。そして3作目となる本作は東京だ。妻夫木聡、長澤まさみ、三浦友和、浅野忠信、染谷将太などの日本人スターも多数出演していることから、中国映画としては異例の全国シネマ展開となった。もちろん中国映画に馴染みがない人でも全く問題ない。始めから終わりまではハイテンションなアクションとストーリーが続く、誰もが楽しめる娯楽作品になっている。
マイナー分野から一転、存在感高まる中国映画
筆者が学生だった25年ほど前、日本でアジア関連の情報はほぼ皆無だった。「韓流」というジャンルはまだ存在しておらず、せいぜいジャッキー・チェンのカンフー映画ぐらい。そんな時代に公開されていた中国映画といえば、『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993年)や『哀戀花火』(1994年)などのように文学的な要素が強いものがほとんどで、岩波ホールや日比谷シャンテなどの単館ミニシアターでの公開がお決まりだった。
香港映画でさえ、それほど注目度が高いとは言えなかった。トニー・レオンやケリーチャンなどに加え、仲村トオルや阿部寛などスターが多数共演して、東京を舞台にした『東京攻略』(2000年)が製作されたが、日本では全く話題にならなかった。それほどアジア分野はマイナーだったのだ。
ところが、中国経済が爆発的な成長をしたのと同時に、中国映画界も巨大な成長を遂げる。予算規模は天井知らずになり、ハリウッドのようなブロックバスター(大作映画)も続出。中国の俳優・女優たちは中華圏だけでなく、日本、韓国、欧米などの映画にも出演し、世界的な活躍をするようになった。
『唐人街探偵 東京MISSION』も中国の旧正月初日に公開されるや、初日に約164億円、4日後に約490億円の興行収入をたたき出し、歴代1位だった『アベンジャーズ/エンドゲーム』を抜き、全世界オープニング興行収入No.1の新記録を樹立。今や中国映画は世界的な記録を左右するまでに巨大化しているのだ。
こうした動きに日本の芸能事務所が無関心であるはずがない。中国を巨大なマーケットと認識し、中華圏作品への進出も活発化している。妻夫木聡は『黒衣の刺客』(2015年、中国・香港・台湾合作)、『唐人街探偵』第2作に出演。長澤まさみは『ショコラ』(2013年、台湾ドラマ)、『The Crossing ザ・クロッシング』(第1作が2014年、第2作が2015年、中国・香港合作)に出演。浅野忠信は『The Wasted Times』(2016年、中国)、染谷将太は『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(2018年、中国)に出演している。日本人俳優たちが中国語のセリフを話すシーンも多く、高い意気込みを感じる。中国映画がマイナー分野に過ぎなかった頃と比べ、状況はかなり変化している。
インバウンド戦略としても重要な中国映画
中国映画が日本のインバウンドにもたらす影響も重要になってきている。中国人に人気の日本の観光地といえば北海道であるが、これは『狙った恋の落とし方。』(原題:非誠勿擾、2008年)という映画がキッカケになった。北海道各地で撮影され、スクリーンに映し出された美しい風景が中国人の心を魅了したのだ。
この成功例からインバウンド戦略にアニメ、映画、ゲームなどを利用する動きが活発化していった。もちろん『唐人街探偵 東京MISSION』もそのひとつで、しかも内閣府が実施する「外国映像作品ロケ誘致プロジェクト」の支援対象作品第1号なのだ。
さすが日本政府の支援を受けていることもあり、日本各地で大掛かりな撮影を実現させている。栃木県足利市のスクランブル交差点、埼玉県春日部市の“地下神殿”の迫力は圧倒的だ。そして実は茨城県でも境町フィルムコミッションの協力によって、さしま環境センター(境町)がロケ地になっている。
アフターコロナでは熱心な中国人ファンが、訪日して各ロケ地を“聖地巡礼”する可能性が高い。日本側は中国ファンの訪日による経済効果を期待しており、すでにロケ地マップ(日中英3か国語)を制作し、ジャパン・フィルムコミッションのサイトfa-external-linkにPDFを公開している。中国語通訳ガイドやインバウンド関係者には強力なツールになるので、ぜひダウンロードしておこう。
最後に余談になるが、日本未公開だった『唐人街探偵』第2作が、『唐人街探偵 NEW YORK MISSION』という邦題で2021年内の劇場公開が決定した。いくら話題作とはいえ、かつての日本では考えられない動きだ。アジア映画のファンとして素直に嬉しい。ぜひ皆様も本作を入口にして興味を持ってもらえれば幸いである。