
茨城大学 グローバルエンゲージメントセンター /地域未来共創学環 准教授
Contents
地域企業と学生が共に問い直す学び―
「ビジネスコミュニケーション」の授業が開く共創の可能性
2025年度前期、「ビジネスコミュニケーション」という授業を通じて、学生と地域企業が協働する新たな学びの場を実践しました。この取り組みは、単なるビジネスコミュニケーションのスキル習得にとどまらず、学生・企業双方が問い直し、変化していくプロセスそのものに価値を見出す試みです。
「学ぶ場」から「関与する場」へ
この授業の特徴は、学生が企業の課題に対して提案を行うだけではなく、その課題の形成過程そのものに関与する点にあります。授業には、日本人学生と留学生がほぼ同数参加し、茨城県内の企業と連携しながらプロジェクトを進めました。
プロジェクトでは、まず連携企業の経営者から直接、現場の課題が提示されました。その内容は、外国人社員とのコミュニケーション、社内理念の共有、海外とのつながり方など、実際の経営に直結するものばかりです。学生たちは企業ごとのグループに分かれ、まずは課題の背景を理解するためのリサーチを行います。企業訪問では、実際に働く現場を見学し、社員への聞き取りを通じて課題がどのような文脈で生じているのかを探りました。
さらに、多言語によるアンケートやインタビュー調査を実施し、多様な立場からの意見を収集していきました。最終発表では、調査結果に基づいた具体的な施策を提示し、再び企業と対話する場が設けられました。この一連のプロセスによって、学びは教室の中にとどまらず、社会と関わる中でつくられていく学びへとなっていきました。
ここで重要なのは、学生が「解決者」として一方的に企業に助言するのではなく、企業とともに問いを深め、課題そのものを再構成していく存在として位置づけられている点です。

学生にとっての「リアリティのある学び」
学生側にとって、この授業は従来の講義とは大きく異なる経験となりました。実際の企業を相手に調査や提案を行うなかで、学生は「正解のない問い」に向き合うことになりました。そこで求められるのは、知識の適用だけではなく、状況を読み取り、自ら判断し、他者と調整しながら前に進む力です。特に印象的だったのは、国籍や言語の違いを越えた協働のあり方です。日本人学生と留学生が同じチームで活動することで、それぞれの強みが自然に活かされていきました。
例えば、留学生が多言語での調査設計や翻訳、外国人視点からの課題提示を担う、日本人学生がデータの整理・分析や論理構成を支えるといった役割分担が生まれました。ここでは「支援する/される」という関係ではなく、互いの専門性を持ち寄る関係が成立しています。
一方で、議論の中では戸惑いや葛藤も生まれます。日本語でのディスカッションに不安を感じる留学生、発言のタイミングに迷う日本人学生――そうしたぎこちなさのなかで、学生たちは、どうすれば相手の力を引き出せるのか、どうすればチームとして機能するのかを試行錯誤していきました。その過程こそが、単なる語学力やプレゼン技術を超えた「コミュニケーションの本質」に触れる学びとなっていたのです。

企業にとっての学び
この取り組みの特徴は、学生だけでなく企業側にも変化が生まれている点です。企業は通常、自社の内部に蓄積された経験や価値観を前提に意思決定を行っています。しかし、そこには当たり前になりすぎて見えなくなっている前提が存在します。学生との協働は、その前提を揺さぶる機会となりました。企業からは、
● 「社内では聞けなかった率直な声が見えた」
● 「自分たちが当然だと思っていたことが通じないことに気づいた」
● 「学生の自由な発想に刺激を受けた」
といった声が多く寄せられました。特に、留学生の視点は企業にとって新鮮なものでした。言語や文化の違いから生まれる違和感や疑問は、企業の中では見過ごされがちな課題を浮かび上がらせます。また、学生が介在することで、社員が本音を話しやすくなるという効果も見られました。上下関係や利害関係のない相手だからこそ語られる声があり、その声が組織の課題を可視化する契機となりました。こうした意味で、この授業は企業にとって「人材育成の場」であるだけでなく、「組織を見直す鏡」としても機能していたと言えるでしょう。

「共創」とは何か
この実践を通して見えてきたのは、「共創」とは単に協力して何かを作ることではないということです。それはむしろ、
● 立場の異なる者同士が対話し
● 前提や常識を問い直し
● 関係性そのものを再構築していくプロセス
であると言えるでしょう。学生と企業、留学生と日本人、大学と地域。それぞれの境界は固定されたものではなく、関わりの中で揺らぎ、再構築されていきます。この授業では、その「揺らぎ」こそが学びを生み出す源泉となっていました。
教育が社会を変えるとき
「ビジネスコミュニケーション」という科目は、本来であればスキル教育として位置づけられるものかもしれません。しかし、この授業はそれを超えて、教育そのものが社会との関係をつくり直す営みになり得ることを示しています。企業の課題が問い直され、学生の立ち位置が変わり、関わる人々の認識が少しずつ変化していく。そこには、小さくても確かな「社会の変化の兆し」があります。教室の中で完結する学びではなく、社会と交差しながら生成される学び。そこでは、学生も企業も一方的な「教える/教えられる」関係にはとどまりません。互いに影響を受け、変化し続ける関係の中で、新たな価値が生まれていきます。こうした実践の積み重ねこそが、これからの地域と社会を支える新たな学びのかたちなのではないでしょうか。


















