約10兆円市場とも言われる抖音。しかしサービス対象を実質中国人に限定しています。そのため抖音が生み出す新しいビジネスや文化が、日本人に伝わるまで大きな時差があります。ならばそれを利用して、一足早く「世界を変えた新しいアイデア」に触れてみませんか?
抖音(ドウイン/Douyin)…中国で1日4億人が利用するショートビデオプラットフォーム。日本や欧米ではTikTokの名称で高い人気を誇る(ただしTikTokアプリでは、抖音に投稿されている動画を見ることはできない。その逆も同様)。スマホ利用にあわせた短時間・縦型の動画形式、スマホだけで子供でもできる動画編集システム、巨大ブーム創出型AIによる動画シェアなど動画SNS業界に多くの革新をもたらしている。
【今回のテーマ】万物皆可冰墩墩(なんでもビンドゥンドゥンにできる)
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日本のテレビ番組きっかけの北京五輪マスコットブーム
抖音は1日6億人の娯楽であると同時に、アメリカンドリームならぬ『抖音ドリーム』を夢見る者にとっての宝探しの場でもある。
話題のネタに一斉に群がり、一人でも多くのフォロワー獲得せんと試行錯誤する。
それもこれも抖音は大量のフォロワーを手にいれ有名人となった者が、驚くべき大金を手にすることができるプラットフォームだからだ。
さて、北京オリンピック開幕以来、関連ニュースが日本でも多く取り上げられた。
その中に日本テレビ朝の情報番組「スッキリ」にて辻岡義堂アナウンサーが北京オリンピックマスコット『冰墩墩(ビンドゥンドゥン)』を激推しするコーナーがあった。ビンドゥンドゥンの持つ可愛らしさが辻岡アナのキャラクターと相まって日本で話題になると同時に、中国のSNS微信公衆号等でもその映像が紹介され、一躍中国においてビンドゥンドゥンと辻岡アナブームが巻き起こった(公衆号で関連記事はわずか1両日中に累計5億pv以上閲覧されたという)。
このブームに抖音も当然反応。
その中で最も多く共有されたテーマのひとつが「万物皆可冰墩墩(なんでもビンドゥンドゥンにできる)」だ。
これは「雪だるま」や「毛糸人形」さらには「飴細工」など様々なものでビンドゥンドゥンを作ってみた様子を動画にした作品群だ。
ヒット動画の場合、だいたい20pvにつき1いいねされるという抖音の平均値に基づけば、「万物皆可冰墩墩」は誕生から数日で1,000万pv超えの動画を量産していることが推測される(抖音では動画の再生数は投稿者しか確認できない)。ビンドゥンドゥンが丸みを帯びたフォルムということで誰でも手軽に再現しやすいということも参加者の多さに拍車をかけたのかもしれない。
また、今回のビンドゥンドゥンブームでもあらためて確認できた面白い現象がある。動画でビンドゥンドゥンを扱うだけでなく、自身のアカウント名をビンドゥンドゥンに替えてしまう人間が大量に発生しているのだ。
厳密に言えば「冰墩墩」の文字前後や間に絵文字をいれてみたり、文字の順番を入れ替えたりして名前被りを回避しているが。
なぜそんなことをするのかと言えば、お察しの通りブームに乗っかって1pvでも1フォロワーでも増えれば儲けものという狙いのためだ。
“フォロワー数至上主義”を生み出す裏に抖音のAI
これを「国民性によるものだから」と安易に片づけるにはもったいない。抖音のAIについて補足しよう。
抖音は投稿後短時間で多くの「いいね」が集まった動画を「おすすめ」に表示する傾向が強いAIだ。フォロワーが多ければ当然「いいね」の初速が早くなる。
ゆえに皆フォロワーを集めることに躍起になるのだ。日本人が普段使うTwitter等のSNSは利用者本人の興味や嗜好からおすすめの内容を決定する傾向がある。
だが抖音は逆だ。インフルエンサーの動画を利用者に視聴させようとするのだ。
この仕組みによってインフルエンサーの動画はますます視聴回数を増やし、その結果フォロワーが増え、それによりさらに多くの人におすすめされるという上昇気流を生み出す。再生数の一極集中によって抖音のAIがブームを生み出し続けることで、抖音が娯楽の中心、話題の中心に居続ける構造なのだ。
これは例えばかつて一世を風靡したfacebookのビジネスにおける影響力低下と同じ轍を踏まないための施策のひとつと言えるだろう。
ともかく「万物皆可冰墩墩」ブームの中で、お菓子や毛糸に加え投稿者の名前すらビンドゥンドゥンと化したのが2月の抖音風景なのであった。