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China Report No.04「エンタメ要素全部盛り!読んで損なし、金庸の武侠小説!!」

【No.04】エンタメ要素全部盛り!読んで損なし、金庸の武侠小説!!

『三国志』などの中国古典を知っておくと、中国人との会話が弾むことは良く知られている。それなら、さらに知っておくと良いのが金庸(きんよう:2018年94歳没)の武侠小説だ。
日本での知名度が低いのが残念だが、中華圏で知らない人はいないほどの巨匠である。

「でも中国の小説って難しそう」と思っている人でも心配無用。

『ロード・オブ・ザ・リング』『ONE PIECE』『ドラゴンクエスト』などの冒険作品が好きな人なら必ずハマるはずだ。

武侠小説とは?

「武侠小説」は日本では聞きなれないジャンルだが、活劇が多めの時代小説と思えばいい。

武術に長け、義理を重んじる侠客たちが登場することから武侠小説と呼ばれるようになった。

日本の時代劇にもチャンバラ活劇はあるが、中国の武侠モノは比較にならないほどド派手だ。内功を練り上げた拳法は岩をも粉砕する。さらに軽功を練り上げれば体重が軽くなり、空をも飛翔する。
これらの作風は日本ではマンガが得意分野で、『ドラゴンボール』『北斗の拳』『NARUTO』など無数の作品がある一方で、小説の分野では少ない。あえて挙げれば「伝奇物」が類似のジャンルで、山田風太郎、夢枕獏、田中芳樹、荒山徹らの作風が近いといえる。

一大ジャンルに成長させた金庸

中華圏において巨大な存在である金庸

 

武侠小説の原型は1920年~1940年代に形成されていたが、1955年に金庸がデビュー作『書剣恩仇録』(しょけん おんきゅうろく)を発表してから状況は一変した。
本作には恋愛やミステリーなどの新要素が加わっていたことで、たちまち中華圏の読者を魅了したのだ。さらに、重厚な歴史ドラマも織り込まれていたため、大衆だけでなく知識人たちまで夢中になった。
金庸は一躍人気作家となり次々に新作を発表。そして彼以外の作家も登場し、武侠小説は中華圏において一大ジャンルに成長したのだ。

普遍的な内容が世代と国を越えて読者を魅了する

金庸作品のパターンはこうだ。
悲運を背負って生まれた少年が、自身の生い立ちを知るべく旅に出る。
始めは強敵に成す術もなく敗北するが、剣術・武術の達人に出会い、修行してメキメキ実力を上げていく。出会った少女と一緒に冒険するうちに恋に落ち、ついに立ちはだかる最強の黒幕。

どうだろう、エンターテイメントの全要素が凝縮されているではないか。中国史に詳しくなくても楽しめるし、知っていれば面白さは倍増する。

内容が普遍的なのでどの時代の読者にも突き刺さる。
事実、時代を越えて何度も何度も映画化、ドラマ化、ゲーム化されてきた。1980年~1990年代にツイ・ハーク(徐克)監督を筆頭にワイヤーアクションによる武侠映画が量産されたことで、「空飛ぶ格闘シーン」は香港映画の代名詞にもなった。

アジア各国では早期に翻訳が行われ、どこでも人気がある。韓国でも武侠モノは一大ジャンルだ。日本では1990年代後半にようやく翻訳本が出版された。筆者はその当時に金庸作品に出合って夢中になったが、半世紀前の作品と知って驚いた記憶がある。

あれから20年以上経ち、日本でも金庸ファンはかなり増えたが、それでも知らない人はまだまだ多い。短編、長編、シリーズ作品を含めた全15作品が日本語翻訳されており、ほとんどの書店や図書館に置かれている。ぜひマンガを読むような気持ちで、気軽に触れてもらえれば幸いだ。

代表作『射鵰英雄伝』から読むのがオススメ

金庸の代表作『射鵰英雄伝』

 

まずは代表作の『射鵰英雄伝』(しゃちょう えいゆうでん、1957年)から読むのがオススメだ。
物語冒頭から、後にモンゴル帝国をつくることになる若き日のチンギス・ハーンが登場し、壮大なストーリーの幕開けにドキドキする。
ところが、主人公の郭靖(かく せい)ときたら頭が悪く、物覚えも悪いので読んでいてイライラする。でも正直で優しい性格なので、いつの間にか応援している自分に気付く。
旅の途中で黄蓉(こう よう)という少女に出会う。美人で頭もいいが、男勝りで気が強い。郭靖と黄蓉は何から何まで対照的だが、それゆえに惹かれ合う。二人の恋の行方も気になって仕方なくなる。加えて典型的な悪人、詐欺師、小役人、奇人変人も多数登場し、読みながら怒ったり、泣いたりと感情が激しく揺さぶられる。これこそ金庸作品の特徴だと思う。

そして、本作品には『神鵰俠侶』(しんちょう きょうりょ、1959年)、『倚天屠龍記』(いてん とりゅうき、1961年)という続編もある。共通のキャラクターも登場しているため、世界観を理解しやすいのも『射鵰英雄伝』をオススメする理由だ。

またAmazon Primeで『射鵰英雄伝』のドラマ版(2017年、全52話)も配信されている。
映像で見るとバトルシーンの迫力があるし、ストーリーも把握しやすいのでこちらから見てもOKだ。

その他、『天龍八部』(てんりゅう はちぶ、1963年)、『笑傲江湖』(しょうごう こうこ、1967年)、『鹿鼎記』(ろくていき、1969年)など、どの作品も面白く甲乙つけがたい。

金庸作品を知れば、推しの作品やキャラクターの話で中国人と盛り上がれること受け合いだ。

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